【過去10年の事例】集落にクマが出没するのはなぜ?人里へ現れる原因と地域でできる対策【2026年】

集落に出没クマの傾向とは
近年、山間部だけでなく、住宅や畑が集まる集落でもクマの目撃や人身被害が相次いでいます。
「集落にクマが出た」と聞くと、人里離れた小さな村を想像するかもしれません。しかし、集落には住宅だけでなく、農地、用水路、河川、道路、学校、事業所など、住民が日常的に利用する場所も含まれます。山林に近い農村部では、私たちの生活圏とクマの行動圏が隣り合っていることも珍しくありません。
環境省によると、2025年度のクマによる人身被害は全国で216件、被害者238人、死亡者13人でした。いずれも過去10年で最も多く、住宅や畑など人の生活圏で発生した深刻な事例も確認されています。
この記事では、集落の意味、クマが集落へ出没する原因、2016年度から2025年度までの10年間の被害状況と具体例、住民・自治会・自治体が取るべき対策を詳しく解説します。
そもそも「集落」とは?

集落という言葉に、全国共通の厳密な定義が一つだけ存在するわけではありません。農林水産省も「集落についての明確な定義はない」と説明しています。
一般には、複数の住宅がまとまり、住民が道路、水路、農地、山林、地域行事などを共有しながら生活している地域を集落と呼びます。内閣府の資料では、単一または複数の集落と周辺農用地などからなる、一体的な日常生活圏を「集落生活圏」としています。
本記事では、次のような場所を含む生活圏を「集落」として扱います。
- 住宅や空き家
- 田畑、果樹園、畜舎
- 農道、生活道路、通学路
- 河川、沢、用水路、河川敷
- 神社、墓地、公園、学校
- 倉庫、事業所、観光施設
- 集落周辺の藪、耕作放棄地、里山
つまり「集落へのクマ出没」は、山の近くの住宅地だけの問題ではありません。クマが住民の生活範囲へ入り込んだ状態を広く指します。
参考:農林水産省「集落や集落営農とは」、内閣府「集落生活圏」
集落でクマ出没が問題になっている理由
クマは通常、人との接触を避けて行動します。しかし、ひとたび集落へ入り込むと、住民と至近距離で遭遇する可能性が高まります。
特に注意が必要なのは、農作業、ごみ出し、犬の散歩、新聞配達、登下校など、住民が普段の生活を送っている最中に遭遇する点です。山中へ入る場合と異なり、住民がクマの存在を想定せず、鈴やスプレーなどの備えを持っていないケースも少なくありません。
環境省の最新ガイドラインでは、近年の東北地方について、山林内よりも市街地などで発生する人身被害が増える傾向があり、人家への侵入や住宅敷地内での被害も起きていると指摘しています。
参考:環境省「特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(クマ編)」
過去10年間のクマによる人身被害
環境省が公表した年度別資料を基に、2016年度から2025年度までの全国の人身被害を整理しました。ここでいうクマ類には、本州・四国のツキノワグマと北海道のヒグマが含まれます。

※件数と人数は異なります。1件の事故で複数人が被害に遭う場合があるためです。2025年度の環境省資料は速報値として公表されたものです。
10年間の数字を見ると、被害が毎年一直線に増加しているわけではありません。2018年度や2022年度のように比較的少ない年がある一方、2019年度、2020年度、2023年度、2025年度には大きな山が生じています。
環境省は、2019・2020年度は北陸、2023・2025年度は東北を中心にブナ科堅果類が凶作となり、秋を中心に出没が増えたとしています。ただし、山の餌不足だけで全ての出没を説明することはできません。クマの分布域、人の活動、集落内の誘引物、藪や河川などの侵入経路が重なって、生活圏での遭遇リスクが高まります。
出典:環境省「クマに関する各種情報・取組」、環境省「クマ類の出没対応マニュアル」、札幌市「さっぽろヒグマ基本計画2023」、秋田県「2022年度人身事故記録」、富山県「2023年人身被害一覧」
過去10年の事例から分かること

1. 山の中だけでなく、自宅周辺でも被害は起きる
2023年の富山市では、自宅の庭、住宅敷地、住宅内などで複数の人身被害が発生しました。2025年には岩手県北上市でも、住宅内で死亡事故が確認されています。
玄関を出た直後や敷地内での作業中は、住民がクマを想定しにくい場面です。「山に入らなければ安全」とは言い切れない状況になっています。
2. 農地と藪が接する場所は遭遇が起きやすい
2022年の北秋田市の事故現場は、河畔林に隣接する水田でした。クマは河川沿いの林、沢、藪などを移動し、そのまま農地や住宅の近くへ出ることがあります。
田畑そのものだけでなく、周囲の見通し、河川とのつながり、草刈りの状況まで確認する必要があります。
3. 建物の中も絶対に安全とは限らない
2023年の富山市では、クマが玄関のガラス戸を破って住宅へ侵入しました。2024年の秋田市ではスーパーに入り、2025年には住家内の死亡事故も確認されています。
車庫、倉庫、作業小屋、店舗などを開け放したままにせず、食料、米ぬか、飼料、生ごみなどを建物内に置く場合も、においを含めた管理が必要です。
4. 出没後の対応者にも危険がある
集落へ出たクマを住民だけで追い払ったり、取り囲んだりするのは危険です。2019年には、対応に当たった実施隊員や警察官が負傷した事例もありました。
目撃者はクマとの距離を取り、警察や自治体へ正確な場所、時刻、頭数、移動方向を伝えることが重要です。
クマが集落へ出没する主な原因

山の餌が少ない
ツキノワグマは秋になると、冬眠に備えてドングリ類やブナの実などを多く食べます。堅果類が凶作になると、餌を探して広い範囲を移動し、人里へ近づく個体が増えることがあります。
ただし、豊作の年にも出没は起こります。堅果類の豊凶は重要な要因ですが、それだけで出没の有無を判断するのは危険です。
集落内に食べ物がある
クマにとって、放置された柿や栗、収穫されない果樹、廃棄野菜、生ごみ、コンポスト、米ぬか、家畜飼料、養蜂箱などは魅力的な餌になります。
一度食べ物を得た場所へ再び現れることもあるため、「少しくらいなら大丈夫」と放置しないことが重要です。秋田市も、果実、農作物、米ぬか、家畜飼料のほか、コンポストの発酵臭や機械油が誘引原因になり得るとして、適切な管理を呼びかけています。
耕作放棄地や藪が移動経路になる
手入れされていない草地、河川敷、用水路沿い、耕作放棄地は、クマが身を隠しながら移動できる場所になります。山林と集落の間の見通しが悪いと、人もクマも互いの存在に気付くのが遅れ、至近距離で遭遇する危険が高まります。
人の活動が減り、境界が曖昧になっている
人口減少や高齢化によって、草刈り、果樹の収穫、里山の管理などが十分に行えない地域もあります。空き家や耕作放棄地が増えると、人の生活圏と野生動物の生息域を隔てていた境界が曖昧になります。
クマの分布域が生活圏へ近づいている
環境省は、四国を除く多くの地域で、クマの分布域と個体数が回復している一方、市街地への出没や人身被害など、人との軋轢が増えているとしています。生息状況は地域によって異なるため、全国一律ではなく、自治体ごとの調査に基づく管理が必要です。
集落で行うべきクマ対策

1. 集落を点検し、危険箇所を地図にする
住民、自治会、自治体、農業関係者などが一緒に地域を歩き、次の場所を確認します。
- クマの目撃地点、足跡、ふん
- 柿、栗、クルミなどの果樹
- 生ごみ、廃棄農作物、飼料の保管場所
- 河川、沢、用水路、河川敷
- 藪、耕作放棄地、空き家
- 通学路、散歩道、ごみ集積所
- 山林から集落へ入る可能性がある経路
出没地点だけでなく、クマが「どこから入り、何を目指しているのか」を考えることが対策の出発点です。
2. 誘引物をなくす
不要な果樹は伐採し、必要な果実は早めに収穫します。落果、収穫残さ、生ごみ、米ぬか、飼料などを屋外へ放置しないようにします。
ごみ集積所やコンポストも点検し、クマに荒らされた場合は同じ管理を続けず、保管方法や回収方法を見直す必要があります。
3. 藪を刈り、見通しのよい緩衝帯をつくる
住宅、農地、通学路の周辺にある藪を刈り払い、クマが身を隠しにくい環境をつくります。河川沿いや斜面など、クマの侵入経路になりやすい場所を優先します。
ただし、草刈り作業中に遭遇する危険もあります。直近の出没情報を確認し、複数人で実施するなど安全を確保してください。
4. 農地や養蜂箱を電気柵で守る
被害が予想される畑、果樹園、養蜂箱などは、適切に設置した電気柵で囲います。電気柵は、草が触れて漏電したり、電圧が不足したりすると効果が落ちるため、設置後の点検と草刈りが欠かせません。
5. 目撃情報を地域で即時共有する
防災無線、メール、自治体アプリ、回覧、学校への連絡など、複数の方法を用意します。通報時には、日時、場所、頭数、大きさ、移動方向、周辺の食べ物や藪の有無まで記録すると、その後の判断に役立ちます。
環境省のマニュアルも、集落内や市街地の出没では速やかな情報伝達が重要だとしています。
6. 行政・警察・消防・猟友会の対応を事前に決める
出没してから連絡先や役割を決めていては、初動が遅れます。平時から次の内容を整理しておく必要があります。
- 通報の受付窓口
- 現場確認を行う担当者
- 住民への周知方法
- 道路や施設の立入制限
- 登下校の安全確保
- 追い払い、監視、捕獲の判断基準
- 夜間・休日の連絡体制
- 人身被害発生時の救助と二次被害防止
2016年の鹿角市の連続事故では、食害を伴う死亡事故という重要情報の共有不足が初動の遅れにつながったと指摘されています。正確な情報を関係者間で共有する体制は、二次被害を防ぐうえで極めて重要です。
集落内でクマを目撃した場合の対応

クマを見つけた場合は、自分たちだけで追い払おうとせず、まず人の安全を確保します。
- クマへ近づかない
- 走って逃げず、クマを見ながらゆっくり距離を取る
- 可能であれば建物や車の中へ避難する
- クマの逃げ道をふさがず、取り囲まない
- 安全な場所から110番または自治体へ通報する
- 近所の人へ不用意に屋外へ出ないよう伝える
写真や動画を撮るために接近したり、大声を出して刺激したりしてはいけません。親子グマの場合は、親グマが子グマを守ろうとして攻撃的になるおそれがあります。
個人が日頃からできる備え

- 自治体のクマ出没情報を毎日確認する
- 朝夕や見通しの悪い場所では特に注意する
- 農作業や散歩は可能な限り複数人で行う
- 鈴、笛、ラジオなどで人の存在を知らせる
- クマ撃退スプレーはすぐ使える位置に携行し、使用方法を事前に確認する
- イヤホンで周囲の音を完全に遮らない
- 車庫、倉庫、作業小屋の扉を開け放しにしない
- 目撃後は安全な場所から警察・自治体へ連絡する
音を出す道具や撃退用品を持っていても、遭遇を完全に防げるわけではありません。出没情報の確認、複数人行動、誘引物の除去などを組み合わせることが重要です。
クマ対策センターの見解
過去10年の事例から分かるのは、クマ問題が「山へ入る人だけの問題」ではなくなっていることです。住宅敷地、水田、道路、店舗、施設など、住民が普段利用する場所でも重大な被害が起きています。
クマの出没後に捕獲や追い払いを行うだけでは、地域全体のリスクを十分に下げることはできません。集落内の食べ物をなくす、藪を刈る、侵入経路を把握する、情報を早く共有する、行政の対応体制を整えるといった予防型の対策が必要です。
そのうえで、個人向けの携帯用品、農地の電気柵、音や光を活用した機器、カメラやAIによる監視などを、地域の状況に応じて組み合わせることが大切です。機器を設置するだけで終わらせず、出没記録を蓄積し、対策を見直し続ける仕組みづくりが求められます。
クマ対策センターでは、クマと人が至近距離で遭遇してから対処するのではなく、クマを生活圏へ寄せ付けず、遭遇そのものを減らす対策を社会全体へ広げることが重要だと考えています。
まとめ
集落とは、住宅が集まる場所だけではなく、農地、道路、河川、学校などを含む住民の日常生活圏です。
2016年度から2025年度までの10年間には、住宅敷地、水田、住宅内、店舗などで深刻なクマ被害が起きました。2025年度は全国で216件、238人が被害に遭い、13人が死亡しています。
集落への出没を減らすためには、次の対策を同時に進めることが重要です。
- 放任果樹や生ごみなどの誘引物をなくす
- 藪や耕作放棄地を整備する
- 電気柵などで農地を守る
- 出没情報を速やかに共有する
- 行政、警察、消防、猟友会の役割を決める
- 住民一人ひとりが最新情報を確認し、遭遇に備える
クマが出てからの対応だけでなく、クマが入りにくい集落をつくることが、人身被害を防ぐための基本です。
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