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クマのDNA調査で何がわかる?自治体が結果を安全に活用する確認手順

クマのDNA調査は国内外で活用されている

クマのDNA調査は、自治体や研究機関が「どの個体が、どの範囲で確認されたか」を客観的な情報として整理するための手段です。毛やふんなどから得られたDNAを解析することで、目視だけでは判別が難しいクマについて、個体の識別や性別、生息数・密度、分布などを把握する手がかりになります。

国内では、環境省の資料でも、有刺鉄線などを利用して体毛を採取する「ヘア・トラップ」を用いたDNA分析が、個体数推定に必要な情報を得る方法の一つとして紹介されています。

また、DNAを利用したクマの調査は日本だけでなく、アメリカやノルウェーなど海外でも実施されています。

海外ではDNAから個体数や生息密度を調査

アメリカでは、ヘア・トラップで採取した体毛からDNAを解析し、個体を識別したうえで生息密度を推定する研究が行われています。

ニューヨーク州北部で2006年に行われたブラックベアの調査では、採取した毛のDNA解析から47個体を識別し、そのデータを使って生息密度が推定されました。

【米国の事例】
毛のDNAから個体を識別し、地域に生息するクマの数や密度を推定する調査に活用されています。

さらに米国ニューメキシコ州の調査では、554か所のヘア・トラップなどから4,083点の毛試料を集め、DNA解析によって725個体(オス367、メス358)を識別しています。

ノルウェーでは継続的なDNAモニタリングを実施

ノルウェーでも、ヒグマの毛やふんを採取してDNAを解析するモニタリングが行われています。NIBIO(ノルウェー生命科学研究所)では、2006年からふんの収集による遺伝的モニタリングを行い、DNAから個体や性別を識別しています。

2025年にカラショークで行われた調査では、248点の毛と3点のふんから16個体のヒグマを識別しました。内訳はオス7頭、メス9頭で、調査地域全体の生息密度も推定されています。

【ノルウェーの事例】
毛やふんのDNAを継続的に調べ、個体・性別・生息密度や地域ごとの分布把握に活用されています。

DNA調査を続けることで何が分かるのか

DNA調査の特徴は、単に「クマがいた」ことを確認するだけではなく、同じ個体が繰り返し確認されているのか、それとも別の個体なのかを判断する材料を得られることです。

同じ地域で継続的に調査すれば、個体識別の情報を積み重ねることで、生息数や密度の推定、性別、分布、個体群の変化などを把握するためのデータになります。米国ではDNAを利用して個体数だけでなく、個体群の増減傾向を調べる研究にも活用されています。

ノルウェーでも継続的なDNA調査によって、個体識別だけでなく、個体群同士のつながりや遺伝的な違いについて研究が進められています。

クマ対策センターでもDNA調査について紹介しています

クマ対策センターでは、以前の記事でもクマのDNA調査の仕組みや国内での活用について紹介しています。

今回紹介した海外の事例を見ると、DNA調査は日本独自の方法ではなく、海外でもクマの個体識別や生息状況を把握するための調査手法として活用されていることが分かります。

一方で、DNA調査によって得られる情報は、調査した場所・期間・採取できた試料などの条件によって変わります。そのため、DNAの結果だけで「この地域は危険」「クマが増えた」と判断するのではなく、最新の目撃情報や被害情報、現地調査などと組み合わせて判断することが重要です。

前回の記事で紹介した国内の調査方法とあわせて見ることで、DNA調査がクマ対策の中でどのような役割を持つのか、より理解しやすくなります。

クマ DNA 調査では、調査の目的、対象地域、採取条件を先に確認します。結果は個体識別などの判断材料であり、当日の出没対応は地域の最新情報で別に判断します。

クマ DNA 調査は個体を区別する情報を補う方法です

クマ DNA 調査で最初に押さえたい答えは、「調査は現場判断を置き換える装置ではなく、個体や分布を把握する材料を増やす方法」ということです。森林内ではクマを直接観察する機会が限られ、同じ個体か別の個体かを外見だけで判断できない場面があります。環境省の研究紹介では、クマの毛からDNAを取り出して個体識別を行う方法が示されています。[1]

調査で扱う試料には、体毛、ふん、唾液、組織などがあります。どの試料が使えるか、どの情報まで比較できるかは、調査の目的と採取条件で異なります。たとえば、知床の環境省データセンターが公開する令和6年度のヒグマ個体識別業務報告では、組織、ふん、唾液を用いたDNA抽出の方法が記載されています。[2] この記載は知床地域の業務報告に基づくものであり、他地域の自治体が同じ試料・手順・精度を採用していることを意味しません。

窓口で「DNA調査をしたなら、近くにいるクマの数が分かるのでは」と聞かれた場合は、調査区域、採取期間、対象試料、結果の公表範囲を確認してから説明します。住民に対しては、結果待ちで現地の注意を止めるのではなく、当該自治体が出している出没情報、施設の利用制限、登山道や農地での指示を確認するよう案内することが実務的です。

まず確認するのは調査の目的と対象地域です

クマの体毛試料と地図を確認する自治体の野生動物担当者

調査票や報告書を読むときは、最初に「何を知るための調査か」を一文で確認します。個体識別が目的なのか、個体数推定の補助なのか、捕獲個体の照合なのか、行動域や系統の研究なのかで、必要な試料数と結果の使い方は異なります。目的が曖昧なまま「DNAで分かった」という表現だけを広報に使うと、住民は出没の有無や危険度まで確定したと受け止めるおそれがあります。

次に、地域を確認します。北海道は、ヒグマの生息密度推定で、遺伝子情報を得るヘア・トラップ調査に代わる方法について検討検証を進めると説明しています。[3] ここで扱われるのは北海道のヒグマに関する取組です。本州のツキノワグマ、別の山地、別の市町村に、そのまま数値や運用を広げてはなりません。クマの種類、山地の連続性、土地利用、調査密度、季節が異なれば、比較できる範囲も変わります。

地域の担当者が確認する項目は、少なくとも次の四つです。

  • 調査の発注者・実施者と、対象としたクマの種類
  • 調査区域、設置地点、採取開始日と終了日
  • 試料の種類、採取・保管・解析の方法
  • 結果が示す範囲と、示していない範囲

この順で情報をそろえると、広報文に必要な「いつ、どこで、何を調べたか」を短く正確に書けます。逆に、報告書にない個体数、出没の原因、再出没の予測は付け足しません。確認できない事項は、調査報告の範囲では確認できないと明記し、最新の地域情報の確認先を示します。

ヘア・トラップの結果は採取条件と一緒に読みます

ヘア・トラップは、クマが通過した際に採取できる体毛を使い、DNA個体識別につなげる調査方法です。環境省は、森林に生息するクマは残雪期を除いて観察が難しく、従来の方法だけでは個体数推定に必要な情報を十分に得にくい課題があると説明しています。[4] そのため、DNAを使った情報入手が検討されてきました。

ただし、採取できた毛が少ないことだけから「クマがいない」とは言えません。設置位置、誘引の有無、降雨、回収間隔、通行しやすい地形、季節の移動などが採取状況に影響し得ます。反対に、同じ個体の試料が複数回得られた場合でも、それだけで周辺の全ての行動や危険度を示すものではありません。調査結果を使う人は、結果表だけでなく、方法の説明と対象区域を同時に読みます。

住民から毛やふんの発見相談があったときは、採取や接近を自分で試みるよう勧めません。まず安全な場所に離れ、現在地、発見時刻、周囲の状況を整理し、自治体の担当窓口、警察、施設管理者など、その地域で定められた連絡先に相談するよう案内します。現場の危険がある場合は、調査の価値より安全な距離の確保を優先します。

個体数推定と出没対応は別の判断を重ねます

個体数推定は、保護管理や長期的な対策を考えるための基礎情報になり得ます。一方、出没への初動は、当日の位置情報、人の活動場所、学校や通学路、農作業、登山道、誘引物、現地の視認状況などを踏まえて行う必要があります。DNA結果が公表されていても、住民への注意喚起、施設の開閉、巡回、通報の受け方を自動的に決めるものではありません。

担当部局内では、長期の調査情報と日々の出没情報を別の表で管理すると混同を減らせます。長期情報には、調査名、対象地域、対象種、期間、解析の前提、報告書のURLを残します。日々の情報には、通報日時、位置、確認方法、対応状況、住民への案内、更新時刻を残します。二つの表を結び付ける場合にも、「同じ個体と確定したのか」「同じ地域での参考情報なのか」を区別します。

北海道のAI活用検討事業の説明も、既存のヘア・トラップ調査に代わる生息密度推定手法の構築に向けた検討検証という位置付けです。[3] 新しい技術の検討があることと、現場での安全判断が完了していることは別です。自治体広報では、技術名を先に強調するより、住民が今確認すべき公式情報と連絡先を先に置くと、誤解を抑えやすくなります。

住民には結果より先に現在の行動を伝えます

住民向けの説明では、DNA解析の専門用語から始める必要はありません。最初に、「現在の出没情報は自治体の公式ページで確認する」「現地の規制や施設管理者の案内に従う」「クマらしい痕跡を見つけても近づかず、地域の連絡先へ伝える」という行動を示します。そのうえで、調査は個体や生息状況を理解する材料の一つであり、結果の解釈には調査条件があると補足します。

広報の短い文例としては、次の考え方が使えます。「本件のDNA調査は、対象区域で採取した試料をもとに個体識別等を検討するためのものです。調査結果だけで周辺の出没状況を判断するものではありません。現在の注意情報、立入上の案内、通報先は自治体の最新情報を確認してください。」この文例は一般的な説明の型です。実際に出す際は、地域名、対象種、調査期間、正式な相談先を各自治体の確認済み情報に差し替えます。

不安を受け止めることと、根拠を超えた断定をしないことは両立します。「調査中なので大丈夫」「結果が出れば必ず防げる」といった表現は使いません。その代わり、情報の更新時刻、確認先、現地で優先する指示を具体的に伝えます。窓口担当者が即答できない解析上の質問は、実施機関または報告書の問い合わせ先に確認する扱いにし、推測で補わないことが大切です。

自治体が確認する連携と記録のポイント

DNA調査を委託・活用する際は、鳥獣担当だけで完結させず、広報、農林業、教育、道路・公園、施設管理など、実際に問い合わせを受ける部署との情報の流れを確認します。調査報告の公開予定日、速報と確報の区別、住民からの問い合わせ窓口、個人情報や位置情報の扱いを事前に定めると、発表後の混乱を抑えられます。

記録では、試料や個体に関する情報と、住民の通報情報をむやみに同一視しません。調査地点の詳細な位置を公開することで採取現場や野生動物への影響が懸念される場合もあるため、公開範囲は実施機関と地域の運用で確認します。個体識別番号を使う場合も、番号が何を意味し、何を意味しないかを説明します。番号があるからといって、特定の個体の現在地を常時把握しているとは限りません。

また、森林総合研究所は、ツキノワグマの出没メカニズムと出没予測手法に関する研究で、GPS装着、出没捕獲個体の特性、食物資源の年変動などを研究計画として示しています。[5] こうした研究は、出没に関わる要因を理解するための知見を積み重ねるものです。しかし、地域のある日の対応は、研究一般論だけでなく、現地の公式な注意情報と管理者の判断を確認して決める必要があります。

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本製品のみで安全を保証するものではありません。地域の公的情報、施設・現場の指示、取扱説明を確認し、複数の対策を組み合わせてください。

まとめ

記事のまとめ

クマ DNA 調査は、体毛、ふん、唾液などから得た情報を用い、個体識別や個体数推定を支える可能性がある調査です。環境省はヘア・トラップを用いたDNA情報の活用を紹介し、知床ではヒグマの個体識別業務における試料とDNA抽出の記録が公開されています。[1][2]
ただし、結果の意味は調査目的、対象種、地域、期間、採取条件、解析方法と切り離せません。採取試料の数は、そのまま地域の個体数や現在の危険度を示すものではなく、調査区域外や別の季節・別のクマ種へ結果を広げて解釈することもできません。報告書を確認するときは、発注者・実施者、対象地域と期間、試料の種類、解析方法、結果が示す範囲と示さない範囲を順に整理します。
自治体は長期的な調査情報と当日の目撃・被害情報を分けて管理し、両者を結び付ける場合も同一個体と確定した情報か、同じ地域の参考情報かを明示する必要があります。
調査結果と日々の出没対応を混同せず、住民には最新の公式情報、現地の案内、通報先を先に伝えることが重要です。

クマ対策センターとしての見解

クマ対策センターでは、DNA調査を地域のクマの生息状況や個体情報を把握するための重要な基礎情報と考えます。一方、DNA調査だけで現場対応を判断するのではなく、最新の出没・被害情報と組み合わせることが重要です。地域や季節によって状況は異なるため、調査結果の対象範囲を正しく理解し、自治体や関係機関と情報を共有しながら、地域ごとの対策につなげていく必要があります。

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参考資料

[1] 環境省「クマ類の個体数推定法の開発に関する研究」
[2] 知床データセンター「令和6年度知床世界自然遺産地域ヒグマ管理に係る個体識別業務報告」
[3] 北海道「AIを活用したヒグマ個体識別手法等検討検証事業」
[4] 環境省「ヘア・トラップを用いた個体数推定方法」
[5] 森林総合研究所「ツキノワグマの出没メカニズムの解明と出没予測手法の開発」

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